【はじめに】なぜ「子のいない夫婦」に遺言が特に重要なのか

「子どもはいないけれど、夫婦で仲良く暮らしているし、特に大きな財産もないから遺言なんて必要ないよね」と感じていませんか?

しかし実際には、子どもがいない夫婦こそ、早い段階で遺言を残すことの重要性が高いと言えます。なぜなら、どちらかが先に亡くなったとき、残された配偶者は事実上「おひとりさま」になるからです。

配偶者が亡くなった後には、次のような現実的な問題が待ち受けています:

  • 相続で思わぬトラブルに巻き込まれる可能性がある
  • 判断能力が衰えたときに、頼れる人がいなくなる
  • 自分が亡くなった後の事務手続きをしてくれる人がいない

こうしたリスクに備えるためには、遺言を作成し、さらには将来を見据えたトータルな準備が必要です。

この記事では、子どもがいない夫婦が遺言を作成しなかった場合の相続リスクや配偶者亡きあとの「おひとりさま」状態が抱える課題とその解決策について、解説します。


1.配偶者にすべて渡るとは限らない? 兄弟姉妹への相続リスク

まず押さえておきたいのが、配偶者にすべての財産が自動的に相続されるわけではないという点です。

■法定相続の仕組み(子どもがいない場合)

配偶者がいる場合の法定相続分は以下のとおりです:

相続人の構成配偶者の法定相続分その他の相続人
配偶者+子1/2子が1/2
配偶者+直系尊属(親など)2/3親が1/3
配偶者+兄弟姉妹(子も親もいない)3/4兄弟姉妹が1/4

つまり、子も親もいない場合、残りの1/4が兄弟姉妹(またはその代襲相続人である甥・姪)に渡る可能性があるのです。

■兄弟姉妹との関係が薄い場合に起きること

  • 親族関係が希薄で、疎遠または連絡も取っていない
  • 配偶者が築いてきた家庭財産に、他人同然の親族が口を出す
  • 遺産分割協議に時間がかかり、残された配偶者の生活に支障が出る

こうしたトラブルは、「遺言書がないこと」がきっかけで顕在化するケースが多いのです。

💡実は“知らない兄弟姉妹”が相続人になっていることも…?

相続人となる兄弟姉妹には、父親や母親が違う異母兄弟・異父兄弟も含まれます。
親の離婚歴や前の結婚の子どもについて、家庭内であまり話されていないことも多く、戸籍を取り寄せて初めて「そんな兄弟がいたなんて…」と気づくケースも珍しくありません。
こうした“知らない相続人”の存在が、遺産分割を難しくする原因になることもあるので注意が必要です。

2.配偶者亡き後の「おひとりさま状態」が抱える3つの課題

子どもがいない夫婦が、配偶者に先立たれたあとは、「おひとりさま」として生きていく時間が始まります。
このときに備えがないと、次のような3つの課題に直面する可能性があります。


課題①:判断能力の低下に備える手段がない

年齢を重ねるにつれて、認知症や脳疾患などで判断能力が低下する可能性は誰にでもあります。

認知症になった場合、自分ひとりで銀行口座を管理したり、不動産を処分したり、介護施設に入所する契約をすることはできません。

法定後見制度を利用する選択肢もありますが、家庭裁判所の選任次第で望まない人が後見人に就くリスクもあります。

配偶者や同居の親族がいれば、仮に判断能力が低下してきても、日常生活や財産管理を自然と任せられますが、「おひとりさま」になった途端にこのような困難な課題に直面することになります。


課題②:入院・介護の手続きを頼める人がいない

おひとりさま状態では、以下のような事務手続きを誰に頼めるのかが不明確になります:

  • 入院時の保証人
  • 介護施設との入所契約
  • 医療・福祉サービスの利用手続き

これらは法的には「家族でなくても委任で対応可能」ですが、現実には施設側から身元保証人の提出を求められることが多く、家族がいない人は断られることもあります。


課題③:自分が亡くなった後の事務処理が滞る

「おひとりさま」が亡くなった場合、

  • 病院や施設への支払い
  • 家賃や公共料金の解約
  • 役所への届け出

などの死後の事務処理をしてくれる人がいなければ、周囲に迷惑がかかる可能性があります。

特に、頼れる親族がいなかったり、いても高齢だったり遠方に住んでいる場合は、そもそもやり取りができない、「関わりたくない」と断られるといった事態も十分にあり得ます。


3.遺言+αでトータルに備えるための3点セット

このような“おひとりさまリスク”に備えるために、まずおすすめしたいのは遺言書の作成です。ただ、遺言書だけでは不十分です。
そこで、これからご紹介する「3点セット」を組み合わせて備えることが、現実的な解決策と言えるでしょう。


① 遺言書|財産を託したい人を明確にする

まずは何よりも、財産を誰にどのように渡したいかを意思表示しておくことが基本です。

  • 配偶者が先に亡くなった場合に備えた予備的な指定
  • 特定の甥や姪、信頼できる友人への遺贈
  • 信託や寄付の活用

など、法定相続に頼らない柔軟な設計が可能になります。


② 任意後見契約|判断力を失う前に契約しておく

判断能力があるうちに、将来の後見人をあらかじめ選び、契約しておくのが任意後見制度です。

  • 家庭裁判所ではなく、自分で信頼できる人を後見人に指定できる
  • 後見人に代理権を与える内容について自分でカスタマイズできる
  • 後見の開始時期も、判断能力が低下したときに限られる

特におひとりさまにとっては、安心して老後を送る基盤となる制度です。


③ 死後事務委任契約|人生の「最後の片付け」を頼める人を決めておく

亡くなった後の事務処理を誰に託すか――。これは法定相続とは別のテーマです。

死後事務委任契約では、次のような業務をあらかじめ契約で依頼することができます:

  • 火葬・埋葬に関する手続き
  • 公共料金の解約、家の片付け
  • SNSやデジタル遺産の削除依頼
  • 役所や年金事務所への届け出 など

これにより、死後の手続きがほったらかしになることを避けられるようになります。

4.まとめ|「おひとりさま」になっても安心な備えを、元気なうちに

子どもがいないご夫婦にとっては、配偶者に迷惑をかけないこと、自分たちが亡くなった後に備えることというのはとても悩ましい問題です。
残された方は、相続、介護、死後事務の問題をひとりで考えなければならなくなります。

だからこそ、「おひとりさま」になる未来を見越して、元気なうちに備えておくことが大切です。

今回ご紹介した3点セット――

  • 遺言書
  • 任意後見契約
  • 死後事務委任契約

を整えておけば、万一のときにも「自分の人生を自分の意思で締めくくる準備」ができている状態になります。

これは、残される相手への思いやりでもあり、自分自身の安心のためでもあります。


■まずは「遺言」からがおすすめ

「契約」と聞くと少しハードルが高く感じるかもしれませんが、まずは最も基本であり効果が大きい遺言書の作成から取り組むのがおすすめです。

特に、子どもがいない夫婦は、

  • 配偶者に確実に財産を渡すため
  • 配偶者亡き後のトラブルを回避するため
  • おひとりさま状態の将来に備えるため

という意味で、遺言がご自身の人生を守る最強のツールになります。
専門家のサポートを受けながら、少しずつ準備を進めることもできます。
あなたらしい人生の終い方を考えることは、いまをよりよく生きることにつながります。

👇 こんな方はお気軽にご相談ください

・遺言や後見制度が気になるけれど、何から始めてよいかわからない
・配偶者に先立たれたあとの備えに不安がある
・兄弟姉妹との相続トラブルを避けたい

当事務所では、事務所またはZoomによる初回60分無料の個別相談を随時受け付けています。
まずは「話を聞いてみたい」だけでも大丈夫です。何を相談すればいいかもわからない、という方でも丁寧に現状をヒアリングしてアドバイスいたします。どうぞお気軽にお問い合わせください。

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