最近母親を亡くしたというある女性(Aさん)からこんなご相談を受けました。

「母が亡くなった後、義理の父から頼りにされていて…。でも、その義父には前妻との間に実子がいるんです。とはいえ、義父とその実子は仲が悪く、連絡もほとんど取っていないようで。こちらとしては“血のつながった子どもに面倒を見てもらってほしい”という思いなんですが、どうすればいいでしょうか?」

このような状況に直面したとき、果たして「義理の父の世話をする法的な義務はあるのか?」「断ることはできるのか?」と悩む方は少なくありません。

この記事では、このようなケースについて、法律の基本を押さえながら、現実的な対応策も含めて解説していきます。


実母の配偶者=義理の父との関係は「姻族」

まず整理しておきたいのは、義理の父というのはあくまで実母の配偶者であり、Aさんとは血縁関係がないという点です。

法律上、婚姻によって生じる親族関係のうち、血のつながりがない義理の親子・兄弟などを「姻族(いんぞく)」と呼びます。


民法上の扶養義務は「直系血族と兄弟姉妹」に限定

民法第877条第1項では、扶養義務があるのは以下の者に限定されています。

直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。

つまり、親や子、兄弟姉妹といった血縁者には扶養義務があるものの、義理の父のような姻族には、原則として扶養義務はありません。

このため、義理の父がAさんに対して「頼りたい」「生活費を援助してほしい」と言ったとしても、法的に応じる義務は一切ないというのが原則です。

また、今回のケースでは義理の父には前妻との間に実子がいるとのこと。たとえ義父と実子の仲が悪かったとしても、法的には実子が扶養義務を負っています。

つまり、世話を求めるべき相手は実子であり、Aさんに扶養義務はありません。

義理の父との関係、どう対応すべきか?3つの現実的な選択肢

とはいえ、義理の父から頼られてしまうと、「こちらに世話をする義務はない」と頭で理解していても、完全に突き放すことにためらいを感じる方も多いでしょう。
しかし、Aさん自身にも生活や家族がある以上、無理に応じる必要はありません

ここでは、今後義理の父との関係にどう向き合っていくか、現実的な選択肢を3つご紹介します。


1. 姻族関係終了届を提出する

このようなケースで「義父との関係を法的に整理しておきたい」と感じたときに有効なのが、「姻族関係終了届」です。

■ 姻族関係終了届とは?

  • 配偶者が死亡した後、役所に届け出ることで「姻族との法的な親族関係を終了」させる制度です(民法第728条第2項)
  • 提出先は市区町村役場。提出期限はなく、いつでも出せます。

■ 出すことのメリット

メリット内容
法的な関係を明確に断てる義父からの期待や誤解を避けやすくなる
扶養照会(生活保護申請時)を回避しやすい「親族ではない」と説明が通りやすくなる
心理的な線引きができる無用な罪悪感や曖昧さを解消しやすい

この届出を出すことによって、法的にも社会的にも「もう義理の父とは関係がない」ことが明確になります。

「これ以上、介護や生活の支援を期待されても応じられない」

「公的機関に“親族”として扱われるのは避けたい」

という場合は、早めに提出しておくことが効果的です。

なお、提出後に義父から何かを求められた場合も、「法律上もう親族ではありません」と説明することで、心理的にも線引きがしやすくなります。


2. 義理の父に「実子に相談してほしい」とはっきり伝える

前述のとおり、義父が実子と不仲であるとしても、法的に扶養義務を負っているのは実子です。
そのため、「お世話になったから…」という情を感じたとしても、今後のことはやはり血縁者に任せるのが筋といえます。

相手の気持ちを否定せず、冷静かつ誠実な口調で伝えるのがよいでしょう。


3. 扶養照会が来たら、丁寧に断る

もし義父が生活保護を申請した場合、福祉事務所から「扶養照会」という形で支援可能かどうかの確認が来ることがあります。

この扶養照会は法的強制力を持たないため、断っても全く問題ありません。

  • 「生活が厳しくて支援はできない」
  • 「法律上の扶養義務がない関係なので応じられない」

といった理由を添えて、丁寧に回答すれば、それ以上強制されることはありません。
※姻族関係終了届が提出済みであれば、照会自体が来ない可能性もあります。


【補足】義理の父から「保険の受取人にした」と言われたら?──医療保険と死亡保険の違いと対応策

相談の中には、義理の父から「保険の受取人にしてある」と言われているようなケースもありますが、そもそも「受け取る気はない」という場合はどうすればいいでしょうか?

このようなケースでは、どの保険の受取人なのか(医療保険 or 死亡保険)によって、対応の仕方が変わってきます。ここでは、それぞれの違いと対応策を整理しておきます。


■ ケース1:医療保険の給付金受取人にされた場合

義理の父が入院や手術をした際に支払われる医療保険の給付金について、受取人として相談者が指定されているケースです。

【この場合のポイント】

  • 医療保険の給付金は、あくまで被保険者(=義理の父)本人の治療に対する補償です。
  • 受取人の指定は、主に「手続きを誰が行うか」の便宜上の意味合いが強いものです。

【受け取らないと言った場合は?】

相談者が「自分は請求しない」と辞退しても、義理の父本人が保険会社に請求することが可能です
そのため、「自分が受け取らないことで困るのでは」と心配する必要はありません。


■ ケース2:死亡保険金の受取人にされた場合

義理の父が亡くなった際に支払われる死亡保険金の受取人に指定されたケースです。

【この場合のポイント】

  • 死亡保険金は受取人固有の権利であり、相続財産ではありません
  • 遺産分割協議の対象にはならず、受取人が請求すればそのまま受け取ることになります。

【受け取りたくない場合は?】

  • 保険会社に請求をしなければ、保険金は支払われません。
  • 請求しないままにしておけば、通常は3年で請求権が時効消滅します。

もし受け取りたくない明確な意思がある場合は、保険会社に「請求の意思がない」旨を伝えることも可能ですが、書面の提出を求められる場合もあります。


■ 対応策:変更をお願いできるなら早めに

義理の父がまだ元気で、良好な関係が保たれているのであれば、なるべく丁寧に受取人変更を提案するべきでしょう。

生命保険の受取人は契約者(義理の父)本人が生前であれば自由に変更可能です。


まとめ:法的責任はなくても、対応は冷静に

今回のケースのように、義理の父から頼られてしまうと、断るのが悪いことのように感じてしまうかもしれません。
しかし、法律上の責任がないことをしっかり理解し、無理をしない距離感を保つことが、あなた自身を守る第一歩です。

必要であれば、姻族関係終了届の提出や、専門家への相談などを検討しつつ、
「義理の父との関係は、血縁ではなく、法律上も任意で続けるものだ」という点を念頭において冷静に対応しましょう。

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