「長男がずっと私たちの面倒を見てくれていて助かったけど、他の子どもたちと同じように財産を分けていいんだろうか……」
「介護してくれた子に少しでも報いたい。でも、他の兄弟が納得してくれるだろうか?」

こんな思いを抱えている親御さんは少なくありません。
高齢化が進む中で、子どもたちの間で介護の負担に差が生まれるのはごく自然なことです。しかし、相続となると「子どもは平等に分けるべきだ」という考え方も根強く、親としては板挟みになることも。

この記事では、親の介護をしてくれた子に感謝の気持ちを伝えつつ、他の子どもたちにも納得してもらえるような相続のかたちについて、法律と実務の観点から解説します。
「平等」ではなく「公平」な相続とはどういうことか、そして遺言や生前贈与などを活用して親としてできることを一緒に考えていきましょう。


親の介護をしてくれた子に「感謝」をどう伝えるか

子どもの誰かが率先して介護や身の回りの世話をしてくれた――
それは、親にとって心からありがたいことです。そして、その感謝の気持ちは、できれば「言葉」だけでなく「形」にして伝えたいと思うのも自然なことです。

とはいえ、他の兄弟に対して「不公平」と思われては困る……。
だからといって、すべての子に同じように相続させてしまうと、介護してくれた子の努力が軽んじられたように感じられ、結果的に家族間のしこりにつながることもあります。

実は、相続の場面では「ありがとう」と伝える手段がいくつか用意されています。
たとえば、遺言によってその子に多めの財産を渡すこともできますし、介護中にお金を援助することで実質的な“報い”を行うことも可能です。後述しますが、制度上は「寄与分」や「特別寄与料」といった仕組みも存在します。

ただし、それらを“制度任せ”にしてしまうと、相続人同士の間で争いが起きる可能性もあるため、親自身が「自分の意思で感謝を示す」ことがなにより大切です。

相続は「平等」より「公平」が大切

相続というと「子どもは平等に財産を分けるもの」と思われがちです。
たしかに、法律(民法)では相続人ごとに法定相続分が定められており、親の遺言がない場合には、それに従って遺産が分けられます。

しかし、子どもたちの人生や親との関わり方は一様ではありません。
たとえば長男が仕事をセーブして実家に通いながら介護を担っていた一方で、他の兄弟は遠方に住んでいてほとんど関わってこなかった、というケースも珍しくありません。

このような場合、法律上は平等でも、実感としては「不公平」と感じられることが多いのです。

だからこそ、親が元気なうちに、「自分の相続はこうしたい」という意思を明確にしておくことが重要です。

すべての子どもに“同じ額”ではなく、“それぞれの貢献や状況に応じたバランス”を考える──それが“公平な相続”の第一歩です。


介護した子に多く渡すための方法と注意点

では、親が介護してくれた子に財産を多く残したい場合、どのような方法があるのでしょうか?
ここでは、主な4つの方法とそれぞれの注意点について解説します。


遺言書で明確に意思を示す

最も確実でトラブルになりにくい方法が「遺言書」を作成して、誰にどの財産をどのくらい渡すかを明記しておくことです。

中でも「公正証書遺言」は、公証人と証人が立ち会って作成されるため、形式不備などで無効になる心配がありません。

また、次のような文言を添えることで、他の子どもたちの納得感を高める工夫もできます。

「長男には長年にわたって私の介護をしてもらい、大きな助けとなりました。その感謝の気持ちを込めて、他の相続人よりも多くの財産を相続させます。」

このように、遺言の中に本人の思いや背景を言葉で書き添える部分を「付言事項(ふげんじこう)」といいます。

付言事項に法的拘束力はありませんが、相続人に親の真意を伝えることで、感情的なもつれを防ぐ効果が期待できます。特に兄弟間に差をつけるような内容の場合は、こうした理由を添える一文がトラブル防止に大きく役立ちます。


生前贈与を活用する

生前のうちに介護してくれた子に金銭を渡す方法もあります。
たとえば「通院の付き添いのため仕事を休んだ際の補填」や「交通費・生活費の支援」といった形で、自然な形で金銭的感謝を示すことができます。

ただし、ここで注意が必要なのは、「生前贈与=特別受益とみなされる可能性がある」という点です。

相続時に、特定の相続人が生前に多くの贈与を受けていた場合、それが「特別受益」として扱われ、遺産分割の際に不公平が生じたと主張されるリスクがあります。

贈与の趣旨や金額によって判断は分かれますが、贈与の事実を記録に残しておいたり、遺言で「これは相続分とは別である」旨を明記しておくことが望ましいです。


寄与分、特別寄与料という制度について

【寄与分とは】

民法には、相続人の中に「特別な貢献をした人」がいた場合に、その分を上乗せして相続できる「寄与分」という制度があります(民法第904条の2)。

たとえば、長年にわたり介護や看病を無償で行ってきた子どもは、その労力に見合う財産を“寄与分”として加算してもらえる可能性があります。

ただし、実務上は「介護の内容・期間・経済的効果」を証明するのが非常に難しく、トラブルの火種になりやすいのが現実です。

そのため、「寄与分に期待する」のではなく、親が生前に遺言などで意思を明示しておくほうが、はるかにスムーズで安心です。


【特別寄与料とは】

また、2019年の法改正により、法定相続人ではない人(例:長男の配偶者など)でも、介護などで特別な貢献をした場合には「特別寄与料」を他の相続人に請求できるようになりました(民法第1050条)。

これは相続財産から支払われるものではなく、他の相続人に対して請求する形になります。

とはいえ、これも寄与分と同様に証明や請求が難しく、実際に活用されているケースは少数です。
制度があることは知っておきつつ、やはり親が自らの意思で事前に対応することが基本となります。

遺留分への配慮も必要

遺言書で介護をしてくれた子に多く相続させる場合に考慮が必要になるのが遺留分との兼ね合いです。
つまり、他の子ども(相続人)にも「最低限の取り分」が法律で保障されていることは忘れてはいけません。

この「最低限の取り分」のことを、法律では「遺留分(いりゅうぶん)」と呼びます。

具体的には、直系尊属である親が亡くなった場合、子どもには法定相続分の半分が遺留分として認められています。

たとえば、子どもが2人いる場合に、遺言で「すべての財産を長男に相続させる」と書いたとしても、次男には法定相続分(1/2)のさらに半分、つまり全体の1/4の遺留分を請求する権利がある、ということです。

仮に遺言や生前贈与によって、ある相続人が遺留分に満たない財産しか相続できなかったという場合、その人は「遺留分侵害額請求」という手続きで金銭の支払いを求めることができます。これは裁判外での話し合いで済むこともありますが、裁判上の争いに発展するケースもあり、家族関係に深刻なしこりを残すことにもなりかねません。

したがって、親がどれだけ介護に感謝していても、他の子どもの感情や法的権利を無視した相続は避けるべきです。特に「すべてを一人の子に相続させる」といった極端な差のつけ方は、かえって争いを招くおそれがあります。

理想的には、「介護した子には多めに渡すけれど、他の子にも一定の財産を残す」ことで、感謝と公平性のバランスを取ることができます。


家族での話し合いとトラブル回避の工夫

遺言や贈与などの“法的手段”も大切ですが、最も効果的なのは親自身が家族に向けて、自分の考えを言葉で伝えることです。

たとえば、以下のような形で話し合いや説明の場を設けることが考えられます:

  • 家族全員で集まる機会をつくり、自分の思いを直接伝える
  • 難しい場合は、手紙にして遺言書に添える
  • 専門家(行政書士やファシリテーター)を交えて“家族会議”を開く

こうした一手間によって、介護した子どもが“特別扱いされた存在”として責められるリスクを減らすことができます。

また、子どもたちにとっても「親が自分の意思で決めたことだ」と納得しやすくなり、結果的に相続を円満に進めることができるのです。


行政書士ができるサポート

介護してくれた子に感謝を伝えたい。でも、他の子どもにも配慮したい。
そんな思いを形にするには、法的手続きと感情のバランスが必要です。

行政書士は以下のようなサポートを行っています:

  • 公正証書遺言の作成支援(家庭事情に配慮した文案の提案)
  • 生前贈与や財産の分け方に関するアドバイス
  • 家族会議の進行サポート
  • 相続後に備えた死後事務委任契約の整備

ご家族の状況に応じて、“争いを防ぎつつ感謝を形にする”方法をご提案できます。
「まだ元気だから」と思わず、ぜひ早めにご相談ください。


まとめ

このように、介護してくれた子に感謝の気持ちとして財産を多く残す方法を見てきましたが、「気持ちだけでなんとかなる」と思わずに、制度と感情の両面から丁寧に準備することが大切です。

そして何より、親自身が、「どうしてこう分けたいのか」という意思を、家族に伝える勇気を持つこと。

それが、感謝の気持ちを正しく伝え、子どもたちみんなが納得できる相続につながっていくのだろうと思います。

✅ まずはお気軽にご相談ください。

ご家族の事情に応じた相続のかたちは一つとして同じものはありません。
「介護してくれた子に感謝を伝えたい」「他の兄弟とのバランスが心配」など、気になることがあれば、ぜひ一度ご相談ください。

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