
はじめに|親は元気。でも、このままでいいのかという不安
親は今のところ元気だが、将来のことを考えると、
「このままで本当に大丈夫なんだろうか」
という不安が頭をよぎることはないでしょうか。
遺言の話をしようとすると、
「縁起でもない」
「そのうちにね」
と軽く流されてしまう。
財産についても、
どこに預金があるのか、不動産はどうなっているのか、
詳しいことは何も知らない。
けれど、何も見えないまま時間だけが過ぎていく――
このような不安を抱えている50〜60代の方は、決して少なくありません。
この記事では、
「親に遺言を書いてもらえない」という状況を前提に、
それでも子ども世代が今できる備えを、現実的な目線で整理していきます。
1. なぜ親は、遺言の話を避けるのか
まず大切なのは、
「親が遺言を書いてくれない=無責任」
と短絡的に考えないことです。
親側の心理としては
・まだ元気だから必要性を感じていない
・「縁起でもない」と思っている
・財産の話=子どもに狙われている感覚
・そもそも何を書けばいいかわからない
というものが挙げられるでしょう。
体が動き、日常生活に支障がないうちは、死や相続を現実の問題として捉えにくいものです。
多くの場合、悪意があるわけではありません。
だからこそ、最初から
「遺言を書いてほしい」
と正論をぶつけるほど、話がこじれてしまうこともあります。
2. まずは「遺言」よりも、ハードルの低いところから探ってみる
遺言がベストなのは事実。でも、
・今すぐ遺言は無理
・話題に出すだけで険悪になる
そんな場合でも、選択肢はゼロではありません。
たとえば、
・財産の全体像だけでも、少しずつ聞いておく
・通帳や重要書類の置き場所を把握する
・「もしものときの連絡先」を共有しておく
といったことならば、できるかもしれません。
ここで重要なのは、
「相続のため」ではなく「困らないため」という位置づけです。
「万が一、入院したときに困るから」
「何かあったとき、どこに連絡すればいいかだけ教えてほしい」
こうした理由であれば、
親も構えずに応じてくれることがあります。
この段階では、
完璧な情報を集める必要はありません。
一度で全部聞き出そうとする必要もありません。
「少し見えるようになる」
それだけでも、子ども側の不安は確実に減っていきます。
3. それでも話が進まないなら、前提を切り替える
親への働きかけをしてみた。
遺言という言葉は避け、できるだけ穏やかに話題を振ってみた。
それでも、
はぐらかされて終わった
「そのうちね」と言われたまま進展がない
話題に出すたびに微妙な空気になる
こうした状況になることも、決して珍しくありません。
ここで大切なのは、
「どうすれば親を動かせるか」を考え続けることではなく、
前提そのものを切り替えることです。
遺言を書くかどうかは、最終的には親の意思です。
子どもがどれだけ正論を重ねても、
納得しなければ書かない、という選択をすることもあります。
この現実を受け入れるのは、簡単ではありません。
ただ、ここを曖昧なままにしておくと、
不安と苛立ちが混ざった状態が長く続いてしまいます。
だからこそ一度、こう考えてみてください。
「親を動かせない前提で、
それでも自分たちが困らないために、何ができるだろうか」
ここからが、子ども世代の本当の備えになります。
4. 親を動かせない前提で、子ども側ができる現実的な行動
4-1. 遺言がない場合を、一度シミュレーションしてみる
まずおすすめしたいのは、
「遺言がない場合、相続はどう進むのか」を
一度、頭の中で整理してみることです。
遺言がなければ、相続は原則として法定相続になります。
誰が相続人になるのか、
どの割合で相続するのかは、法律で決まっています。
ただし、ここで誤解されがちなのが、
「割合が決まっている=自動的に分けられる」というイメージです。
実際には、
相続人全員で遺産分割協議を行い、
誰が何を相続するのかを話し合って決める必要があります。
この流れを知るだけでも、
「何が起きるかわからない」という漠然とした不安が、
「こういう段取りになる」という具体的な理解に変わります。
シミュレーションの目的は、
不安を煽ることではありません。
相続が始まったときの“作業の全体像”を把握することです。
4-2. 遺産分割協議で、つまずきやすいポイントを知っておく
遺産分割協議が難航する理由は、
誰かが強欲だから、という単純な話ではありません。
多くの場合、問題になるのは次のような点です。
たとえば、不動産がある場合。
実家を誰が引き継ぐのか、
売るのか、残すのか、
それぞれの生活事情や感情が絡み合います。
また、
「法定相続分どおりが公平なのか」
「実際の貢献度を考慮すべきなのか」
という価値観の違いも表面化しやすいところです。
これらは、
相続が始まってから突然考えろと言われても、
冷静に判断するのが難しいテーマばかりです。
だからこそ、
「遺言がないこと」そのものよりも、
準備なしで話し合いに入ることが最大のリスクだと知っておくことが重要です。
4-3. 他の法定相続人と、ゆるく認識をすり合わせておく
ここでいう「すり合わせ」は、
正式な約束をしたり、結論を出したりすることではありません。
・相続の話題に対して、どんな温度感なのか
・実家や親の財産について、どう考えていそうか
・将来、揉めそうなポイントはどこにありそうか
こうしたことを、
雑談レベルで把握しておくだけでも、大きな意味があります。
相続が始まってから初めて、
「そんなふうに考えていたとは知らなかった」
という状況になると、
話し合いは一気に感情的になりがちです。
一方で、
事前に考え方の違いを何となく知っていれば、
心の準備ができます。
大切なのは、
相続が始まった瞬間に、本音をぶつけ合う状態を避けることです。
4-4. 親の意思が不明な部分と、自分の希望を切り分ける
遺言がない相続では、
「親ならこう言ったはずだ」
「本当はこうしたかったに違いない」
という言葉が、しばしば登場します。
この“推測”は、とても厄介です。
なぜなら、
誰も否定できない一方で、
誰も証明できないからです。
だからこそ、
今のうちに自分自身の中で、
これは親の意思が分からない部分
これは自分の希望にすぎない部分
を切り分けておくことが大切です。
この整理ができていると、
遺産分割協議の場で、
感情と主張が絡まりにくくなります。
5. 不安を一人で抱え続けないという選択肢
とはいえ、
・親との関係性が複雑
・兄弟姉妹との距離感が難しい
・自分なりに考えてみたけれど、整理しきれない
そんなケースも多いはずです。
このテーマは、
感情と現実、家族関係と制度が絡み合うため、
一人で考え続けるほど、頭の中が混乱しがちです。
その場合は、
「今の状況を一度、外に出して整理する」
という選択肢もあります。
必ずしも、
すぐに遺言を作る必要はありません。
何かを契約しなければならないわけでもありません。
・今の状況では、何がリスクになりやすいのか
・何をしておけば、将来の負担を減らせるのか
・自分たちは、どこまで関与すべきなのか
こうした点を整理するだけでも、
不安はかなり言語化されます。
6. まとめ|「何もできない」ではなく、「できる備えはある」
親が遺言を書いてくれない。
財産のことも、はっきりとは分からない。
この状況に対して、
「もうどうしようもない」
と感じてしまうのは、自然なことです。
でも実際には、
・遺言よりハードルの低いところから情報を集める
・話し合いが必要になる流れを知っておく
・関係者の考え方を把握しておく
・自分の期待と現実を切り分けておく
こうした行動は、今からでもできます。
完璧な備えでなくていい。
一度で全部整えなくていい。
「少し見えるようになる」
「少し整理できる」
それだけでも、
相続が現実になったときの負担は確実に変わります。
親に期待しすぎず、
自分たちができる備えに目を向ける。
それが、
この問題と長く付き合っていくための、
もっとも現実的なスタンスなのかもしれません。
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ここまで読んで、
「自分のケースでは、どこがリスクになりそうか」
「何から整理しておくべきか」
を一度はっきりさせたいと感じた方へ。
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あくまで現状を整理するためのものなので、
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