
「自分が亡くなったあと、手続きや片づけは誰がやってくれるのだろう?」
近年では、おひとりさまや子どもがいない夫婦が増えてきており、自分の死後のことをどうしたらいいのか、悩む方が増えています。葬儀や火葬、役所への届出、遺品の整理、公共料金の解約など、さまざまな手続きが必要になりますが、こうした「亡くなったあとの事務」を、まとめて「死後事務(しごじむ)」と呼びます。
これらの手続きを誰が行うのか――実は、法律で明確に決まっているわけではありません。家族や親族が行うケースが多いですが、もし身寄りがなかったり、家族に迷惑をかけたくないと考えたりする人にとっては、大きな不安材料となります。
そこで、活用できるのが「死後事務委任契約」です。終活の選択肢の一つとして、押さえておくべきポイントを解説します。
- 1. 死後事務委任契約とは?
- 2. 依頼できる内容(できること、できないこと)
- 2.1. 依頼できること
- 2.2. 依頼できないこと
- 3. 死後事務委任契約の流れ
- 3.1. ステップ1:誰に依頼するかを考える
- 3.2. ステップ2:契約内容の打ち合わせ
- 3.3. ステップ3:契約書の作成(できれば公正証書で)
- 3.4. ステップ4:費用や必要書類の準備
- 3.5. ステップ5:死亡後、受任者が手続きを開始
- 4. 誰に依頼するか
- 4.1. 家族や知人
- 4.2. 専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)
- 5. 契約に係る一般的な費用
- 5.1. 契約書作成にかかる費用
- 5.2. 死後事務の実施にかかる費用(報酬+実費)
- 6. よくあるトラブルと注意点
- 6.1. 契約相手と連絡が取れない
- 6.2. 家族が契約内容に反対する
- 6.3. 費用の準備が不十分
- 6.4. 契約書の内容があいまい
- 7. まとめ
死後事務委任契約とは?
死後事務委任契約とは、生前に信頼できる人(個人や専門家)にお願いをして、「自分が亡くなったあとにやってほしい事務手続き」を依頼しておくという内容の契約のことをいいます。
たとえば、以下のような方にとって大きな安心につながります。
- ひとり暮らしの方
- 子どもがいない、あるいは遠方に住んでいる方
- 家族に負担をかけたくないと考える方
- 身内とは疎遠になっており頼れる人がいない方
この契約があることで、亡くなった後の手続きがスムーズに進み、残された人の負担を減らすことができます。さらに、希望どおりの形で葬儀や納骨が行われやすくなる点も大きなメリットです。
依頼できる内容(できること、できないこと)
死後事務委任契約で依頼できるのは、「死亡後の身の回りの手続きや整理」に関することです。具体的には、次のような内容が含まれます。
依頼できること
- 死亡届の提出、火葬許可の取得
- 葬儀や火葬、納骨の手配
- 賃貸住宅の解約、住居の片づけ、遺品整理
- 電気・ガス・水道・携帯電話などの契約解約手続き
- 健康保険や年金の資格喪失届出など役所への申請
- 友人・知人への死亡連絡
- ペットの引き取り先への連絡や手配
- 遺言書の保管場所の確認や、遺言執行者への連絡
このように、実際の生活に関わる問題の「後始末」のような内容を依頼することができます。
依頼できないこと
一方で、死後事務委任契約では「法律上の権限が必要なこと」や「財産の分配」に関することは依頼できません。たとえば以下のような内容です。
- 相続手続き(遺産分割協議や相続登記など)
- 遺言の執行(※遺言執行者に任せるべき手続き)
- 相続人間の調整や代理交渉
- 銀行口座の解約・引き出し(※基本的には受遺者や相続人が行う)
つまり、「財産の引き継ぎ」は遺言書や相続手続きの分野になり、死後事務委任契約では対応できない部分です。
このため、遺言書とセットで備えておくと、終活としてはより安心・確実なものとなります。
死後事務委任契約の流れ
では、実際に死後事務委任契約を結ぶには、どのような手順が必要なのでしょうか。一般的な流れは次のとおりです。
ステップ1:誰に依頼するかを考える
まずは、信頼できる依頼先を選びます。家族や知人にお願いする場合もありますが、近年は行政書士などの専門家に依頼する方も増えています(詳しくは後述します)。
ステップ2:契約内容の打ち合わせ
どのような死後事務を依頼したいのかを具体的に話し合います。たとえば「葬儀は簡素に」「遺品はこの団体に寄付を」「ペットの行き先はここに」など、ご自身の希望を明確に伝えることが大切です。
ステップ3:契約書の作成(できれば公正証書で)
口約束では法的な効力がなく、相手も責任を果たしにくくなります。そのため、正式な契約書を交わすことが重要です。特に、公証役場で作成する「公正証書」にしておけば、より信頼性が高くなります。
ステップ4:費用や必要書類の準備
実際の死後事務に必要な費用は、生前に預けておく方法が一般的です。契約者の死亡後に口座を使うことはできないため、あらかじめ現金や信託を利用する形での備えが必要です。
ステップ5:死亡後、受任者が手続きを開始
ご本人の死亡を確認した後、受任者(依頼された側)が契約に基づいて事務処理を開始します。このとき、遺族や関係者と連携するケースもあります。
誰に依頼するか
死後事務委任契約は、誰とでも結ぶことができます。ただし、「誰に依頼するか」は非常に重要なポイントです。信頼性や対応力をよく見極めましょう。
家族や知人
- もっとも費用を抑えやすく、本人の希望を理解してくれている可能性も高い
- ただし、手続きに慣れていないと負担になることも
たとえば、死亡届の提出や火葬手配など、時間的な制約がある事務もあるため、「知っているから頼みやすい」という理由だけで選ぶと、後々トラブルになることもあります。
専門家(行政書士・司法書士・弁護士など)
- 業務に慣れており、スムーズな手続きが可能
- 客観的な第三者として、親族間のトラブルを避けやすい
- 報酬が必要になるが、その分安心感も高い
特に「身寄りがない」「親族と疎遠」「家族に負担をかけたくない」という方には、手続きに詳しい専門職への依頼がおすすめです。書類作成から実務手続きまで一括でサポートしてもらえる事務所もあります。
契約に係る一般的な費用
死後事務委任契約には、契約書の作成費用や、実際に発生する死後事務の実費・報酬などがかかります。以下はあくまで目安ですが、参考になる相場です。
契約書作成にかかる費用
- 専門家に依頼して文案作成:数万円~
- 公正証書にする場合:プラス1万1000円の公証人手数料、実費
死後事務の実施にかかる費用(報酬+実費)
ひとつひとつの委任事務についてそれぞれ報酬を設定して、それを加算していくことになります。また、葬儀費用、火葬費用、交通費などさまざまな実費もかかります。
- 各事務の報酬:5万〜20万円程度が一般的
- 実費:葬儀費用、火葬費用、役所手数料、交通費など(10万〜数十万円)
総額でいくらになるかは、何をどれくらい委任するかによるのでケースバイケースになりますが、契約時点で、これらの費用をどう準備しておくかが大切です。たとえば、現金を信頼できる人に預ける、預託専用口座を作っておく、信託契約を組むなどの方法があります。
よくあるトラブルと注意点
死後事務委任契約はとても便利な制度ですが、準備や相手選びを誤ると、思わぬトラブルに発展することもあります。ここでは、実際によくある問題と、その対策を紹介します。
契約相手と連絡が取れない
いざというときに、契約相手と連絡が取れず手続きが進まないケースがあります。受任者が高齢であったり、引っ越しや入院などで音信不通になっていることも。
対策:
契約後も定期的に連絡を取り合い、連絡先の変更があった場合は必ず共有しておきましょう。また、信頼できる第三者(家族や専門職)にも契約の存在を伝えておくと安心です。
家族が契約内容に反対する
本人の希望に基づく契約であっても、遺族が「聞いていない」「そんな契約は無効だ」と反発するケースがあります。
対策:
契約内容はできる限り文書に明記し、公正証書にしておくのが効果的です。加えて、生前に家族と話し合い、「こうした希望がある」と伝えておくことも、不要なトラブルを防ぐポイントです。
費用の準備が不十分
死後事務の実施には費用がかかりますが、契約者の死亡後は銀行口座が凍結されるため、口座から直接支払うことはできません。費用の準備がなければ、受任者も対応できなくなります。
対策:
契約とあわせて、費用をあらかじめ預けておく方法(預託・信託など)を検討しましょう。受任者と「どのくらいの費用がかかるか」「どう準備するか」を事前に確認しておくことが重要です。
契約書の内容があいまい
「何をどこまで頼んでいいのかわからない」というまま契約してしまうと、手続きの抜け漏れや、受任者との認識違いが生じます。
対策:
やってほしい事務内容は、できる限り具体的に記載しましょう。たとえば「賃貸の解約」だけでなく「部屋の片づけ」「家財の処分方法」なども記載しておくと安心です。
まとめ
死後事務委任契約は、「亡くなったあとのことを信頼できる人に託す」ための制度です。遺言だけでは対応できない、葬儀や事務手続き、身の回りの整理などをカバーしてくれる大切な仕組みといえます。
特に、次のような方にとっては強い味方になります。
- 身寄りがない、おひとりさま
- 家族とは距離を置いている
- 子どもがいても頼りたくない
- 自分の希望に沿った形で最後を迎えたい
安心して最期を迎えるためには、生前からの備えが欠かせません。
誰に、何を、どうお願いするか――。
そして、必要な費用や手続きの準備はできているか――。
その一つひとつを明確にしておくことで、ご自身の尊厳を守りながら、大切な人たちの負担も減らすことができます。
もし「自分の場合はどうなるんだろう?」と少しでも不安を感じたら、ぜひ一度、専門家に相談してみてください。ご自身に合った最適な形を一緒に考えてもらえるはずです。
✅ ご不安なことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
終活や遺言に関することは、「なんとなく気になっているけれど、何から始めたらいいかわからない…」という方がほとんどです。
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