遺言って本当に必要?

「遺言は書いた方がいい」とよく言われます。
一方で、「本当に自分にも必要なのだろうか」「書けばすべて解決するのだろうか」と疑問を感じている方も多いのではないでしょうか。

遺言は、とても有効な制度ですが、万能ではありません。
できることと、できないことを正しく理解しないまま書いてしまうと、「遺言を書いたのに思ったほど安心できなかった」という結果にもなりかねません。

この記事では、遺言の役割を一度整理したうえで、
「書いた方がいい人」と「今は書かなくても大きな問題が起きにくい人」について解説します。


遺言でできることは、意外とシンプル

まず、実務的にいえば、遺言で確実にできることは、次の一点に集約できます。

亡くなった後の「財産の分け方」と、その実行方法を決めること。

具体的には、

誰に、
どの財産を、
どれくらい渡すのか。

そして、その内容を誰が中心となって実行するのか(遺言執行者)を定めることです。

この点において、遺言はとても強力です。
法律で定められた法定相続分とは異なる分け方もできますし、相続人以外の人に財産を渡すことも可能です。

相続において起こりやすい混乱の多くは、
「分け方が決まっていないこと」
「誰が手続きを進めるのか決まっていないこと」
から生じます。

その意味で、遺言は相続のスタート地点を整えるための道具だと言えます。


遺言ではできないこと

一方で、遺言ではできないこともあります。

遺言では、次のようなことはコントロールできません。

まず、相続人同士の感情や人間関係です。
内容が正しくても、納得できない人がいれば、トラブルの火種は残ります。

また、遺留分をめぐる争いを完全に防ぐこともできません。
遺言は分け方を示すものですが、それをどう受け止めるかは別問題です。

さらに、認知症になった後の財産管理や、
亡くなった後の細かな手続きや段取りまではカバーできません。

つまり、遺言は
「死後の財産の分け方」には強い
一方で、
「生前から死後にかけての全体像」を一人で担う制度ではない
という位置づけになります。

遺言に過度な期待をしないことが、かえって安心につながります。


遺言を書いた方がいい人― 遺言は揉めそうな人「だけ」が書くものではない

では、どのような人が遺言を書くべきなのでしょうか。

遺言を書く目的は主に次の3つです。

  • 相続トラブルを防ぐため
  • 家族の手続き負担を軽くするため
  • 自分の意思を“形”として残すため

そのため、財産が多い・少ないに関係なく、書いた方がいいケースはかなり幅広くあると言えるでしょう。

目安になるのは、相続が“自然にはまとまりにくい構造”を持っているかどうかです。

こうした場合、遺言がないと、「そのとき考えればいい」では済まない可能性が高くなります。

一方で、遺言があれば、相続人同士が話し合う“土台”ができ、余計な衝突を避けやすくなります。

それでは、具体的に見ていきましょう。

① 子どもがいない夫婦

子どもがいない夫婦は、配偶者が亡くなると兄弟姉妹や甥姪が法定相続人になる可能性が高いです。

特に兄弟姉妹が多い方の場合はその全員と遺産分割協議をする必要がでてきます。

つまり、当然のように「配偶者に全部相続される」わけではなく、遺言で定めておくことが必須になります。

また、夫婦どちらが先に亡くなるかわからない、事故などで同時に亡くなるかもしれない、ということも考えると、万が一のときに財産を誰に託すのかを明らかにしておくことの意義は大きいです。

② 相続人同士が不仲または疎遠

相続人になる子どもたち同士が長年連絡を取り合っていない場合や不仲で関係があまりよくない場合、相続手続きが重たく、進めにくいものとなる可能性があります。

お互いが「できれば関わりたくない」と思っていると、遺産分割協議がまとまらなかったり、なかなか進まないということが起こり得ます。

③ 再婚や内縁関係などで家族関係が複雑

  • 前妻・前夫との子がいる
  • 養子・認知した子がいる
  • 内縁の配偶者がいる

このようなケースでは、法定相続人の関係が複雑になりやすく、意図したとおりに相続されない結果になりやすいです。特に、内縁関係があっても法的には相続人にはなれませんので、遺言などで明確に意思を残す必要があります。

④ 不動産を持っている人

実家・自宅・土地などわけにくい財産がある場合、法定相続に委ねると共有名義になり、売却や管理で揉めたり、分け方で揉めたりする原因になります。

特に、主な資産が自宅だけで貯金がほとんどないという人が亡くなった場合、誰が住むのか、売却するのか、代償金などで調整可能かといった問題がでてきます。

本来であれば生前のうちによく話し合って決めておくことが理想ですが、話し合えなくても遺言によって方針を決めておくことでトラブルを防ぐことにつながります。

⑤ 特定の人に多く(少なく)相続させたい場合

特定の親族が同居していて長年にわたり面倒を見てくれていた場合や事業を継いでくれる子に多く渡したい場合、逆に、いくらも渡したくない相続人がいるというような場合も法定相続分ではうまくいきません。

きちんと遺言を作成して付言事項(法的効力のないメッセージ)として財産の分け方の理由を書いておくことは、相続関係者全員の納得感につながるでしょう。

⑥ おひとりさまや身寄りがない人

いわゆる「おひとりさま」の場合は、亡くなった後、財産も死後の手続きもそのままではどうすることもできません。

遺言や死後事務委任契約などであらかじめ手配をしておかないと、行政主導で必要最低限の手続きのみ進められるということになります。相続人がいない場合は最終的には国庫に帰属します。

せめてどこかに遺贈寄付をしておきたい、など財産について希望がある場合は遺言作成が必要になります。


今すぐ遺言を書かなくてもいい人

それでは、逆に、「今すぐ遺言を書かなくてもいい人」というのはどういう場合があるでしょうか?

例えば、相続人が配偶者と子どもだけで、関係も安定している。
財産の内容がシンプルで、分け方について大きな対立が想定されない。

このような場合は、遺言よりも先に、財産や契約関係を整理すしたり、家族と考え方を共有しておくことだけで足りるということもあります。

遺言は「早く書けば安心」というものではなく、
状況が整ったときに、必要な形で使うものです。

遺言を作成するメリット

あらかじめ遺言を作成することでどんなメリットがあるのかをここで確認しておきましょう。

① 相続トラブルを防ぐ

あらかじめ「誰が」「何を」「どれだけ」相続するのかを明確にすることで余計なトラブルを未然に防ぐことができます。また、遺言があれば、遺産分割協議が不要になり、協議がまとまらないリスクを避けることができます。

② 家族の手続きの負担を軽くする

銀行口座の解約や不動産の名義変更などの財産の相続手続きについて、遺言があることで家族の負担が少なくなります。遺言執行者を定めていれば、原則として遺言執行者だけで手続きを進めることができ、相続人全員の印鑑証明書と署名、実印の押印を集める必要もなくなります。

また、遺言によって「財産の分け方の方針」が示されているので、残される家族が協議して決めるという負担は大幅に軽減されます。

③ 自分の意思を確実に反映できる

法定相続分どおりではなく、誰かに多く・少なく相続させたり、相続人ではない人に財産を譲ったりすることができます。ただし、相続人の最低限の取り分である遺留分には注意する必要はあります。

また、普段は伝えづらい「家族への感謝のメッセージ」を付言事項として残すこともできます。

④ 将来の不安が軽くなる

これは遺言を作成した本人にとってのメリットになりますが、遺言作成後もその人の人生は続きます。「重要なことは決めて形に残しておいた」という安心感をもって残りの人生や終活に取り組める意義は大きいでしょう。

遺言作成の注意点

それでは、ここで、遺言作成に関する注意点についてみてみましょう。

① 書き方を間違えると「全部無効」になる

遺言は法律で有効になるための書き方(条件)が定められています。それは、全文自筆(※例外あり)、日付を書く、署名押印する、ということです。そのほかに、修正の仕方についても定めがあり、書き方を間違えると、その部分だけでなく遺言全体が無効となりますので、注意が必要です。

② 遺言内容によっては不満が出る

相続人間で差があったり、内容のバランスがとれていないと、感情の対立が表面化して、せっかくの遺言が逆にトラブルの種になる場合があります。

③ 見つけてもらえないリスク

遺言を作成したことを身近な人に伝えておかないと、遺言が見つからないまま相続手続きが進められてしまうリスクがあります。自筆証書遺言の場合は法務局での保管制度による通知という手段もあります。公正証書遺言の場合であっても謄本を通帳などと一緒に保管しておいて見つけてもらいやすくする工夫が必要でしょう。

④ 状況が変わると内容が古くなる

遺言を作成した後に、家族構成が変化したり、財産の額や内容が大幅に変化することは当然起こり得ます。したがって、遺言作成後も定期的な見直しが必要になってきます。

ただし、「きちんと最終的なものが決まってから書こう」と思っているといつまでたっても遺言内容が決まらないということも起こり得ます。遺言は作成した後でも、いつでも新しく書き直すことができますので、この点は気にしすぎない方がいいでしょう。


まとめー 迷ったときは「状況整理」から

遺言について迷うのは、珍しいことではありません。
多くの場合、その迷いは、

「制度がわからない」よりも
「自分の状況を整理できていない」ことが原因だったりします。

遺言だけで足りる人もいれば、
遺言に加えて別の備えが必要な人もいます。
まだ準備段階の人もいます。

まずは状況を整理するところから始めてみてはいかかでしょうか。

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