
「自分が亡くなった後は、今住んでいるマンションを孫に託したい」
相続や終活の相談では、このようなお話を受けることがあります。
とある80代の女性から、自己所有の分譲マンションについて、自分が亡くなった後は、先日結婚したばかりのお孫さんに引き継がせたいというご相談がありました。
子どもたち夫婦はいずれも自己所有の物件に住んでいるため、子どもではなく、孫に託したいとのことで、すでに子どもたちとも話し合いができており、マンションを引き継ぐ予定のお孫さんとも意思確認が済んでいるとのことでした。
このような相談で、多くの方が気にされるのは次の2点です。
- どんな方法で実現できるのか
- 税金や手続きの面から見て、どの方法がよいのか
そこで今回は、相談事例を参考に、孫にマンションを残すための方法について、「生前贈与」と「遺言による遺贈」の比較を軸に、考え方を整理してみます。
※本記事の相談事例は、個人情報に配慮し、一部内容を調整・抽象化してご紹介しています。
相談事例の概要
今回のご相談は、次のようなものでした。
- 相談者は80代女性
- 夫はすでに他界
- 自己所有の分譲マンションに居住中
- 死後はそのマンションを孫に託したい
- 娘2人とも話し合い済み
- マンションを受け取る孫とも話し合い済み
このケースでは、家族間で一定の意思確認はできているということでした。そこで、次に、「どういう法的な形で実現できるか、また、実現するのがよいか」が、問題になります。
まず考えたいのは「生前贈与」か「遺言による遺贈」か
孫にマンションを渡す方法としては、いくつかの選択肢があります。
1.生前贈与
生きているうちに、マンションを孫へ贈与して名義を移す方法です。
2.遺言による遺贈
遺言書に「このマンションを孫に遺贈する」と記載しておく方法です。
3.死因贈与
「自分が亡くなったら、このマンションを孫に渡す」という契約を、生前に結んでおく方法です。
4.家族信託
マンションを信託財産として管理し、本人の生活や管理を支えながら、将来の承継先を定めておく方法です。
大きな方向性としては、生前のうちに渡しておくか、自分の死後、渡すことにするか、ということです。
生前贈与は税負担が重くなりやすい
まず、一番シンプルで確実な方法は生前贈与です。自分が生きているうちに双方の合意で確実に渡すことができます。
ただ、生前贈与の大きなデメリットとしては、税負担が重くなりやすいことが挙げられます。
不動産を孫へ生前贈与する場合、相続税だけでなく、贈与税、不動産取得税、登録免許税なども関わってきます。
マンション1室のように評価額が大きくなりやすい財産では、贈与税の負担がかなり重く感じられるケースもあります。
一般論としていえば、「亡くなった後に孫へ渡したい」という目的だけであれば、生前贈与はややコストが重い方法になりやすいといえるでしょう。
遺言による遺贈は税負担と実効性のバランスがとれている
今回のように
「今すぐ渡したいわけではなく、自分が亡くなった後に孫へ引き継がせたい」
というケースでは、まずは遺言による遺贈が本命になりやすいです。
理由のひとつは、生前贈与に比べて税負担が重くなりにくいことがあるからです。
生前贈与は贈与税の枠組みで考えるため、暦年課税であれば基礎控除は年間110万円です。マンションのように評価額が大きくなりやすい財産を贈与する場合、この110万円を超える部分に対して贈与税がかかるため、税負担が重くなりやすい傾向があります。
一方、遺贈は相続税の枠組みで考えることになり、相続税には基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)があります。
もちろん、遺産全体の額などによって結論は変わりますが、一般論としては、「亡くなった後に孫へ渡したい」という場面では、生前贈与より遺贈の方が税負担を抑えやすいことが多いでしょう。
また、もう一つの理由としては、目的に対して方法が素直で、実行しやすいことが挙げられます。
遺言であれば、
- どの財産を
- 誰に
- どのように渡すか
を明確に定めることができます。
また、すでに家族間で話し合いができているのであれば、あとはその意思をきちんと法的な形にしておくことが大切です。
その点、遺言はとても使いやすい方法です。
特に、公正証書遺言であれば、形式面での安心感もあり、後日の手続きも比較的進めやすくなります。
今回のように、
「承継先が決まっている」
「関係者の意思確認もできている」
というケースでは、まずは遺言による備えを中心に考えるのが現実的でしょう。
死因贈与という方法について
なお、亡くなったときに財産を渡す方法としては、死因贈与契約という方法もあります。
これは、生前に相手方と
「自分が亡くなったら、この財産を渡します」
という契約を結んでおく方法です。
遺言と似ている部分もありますが、遺言が本人の意思表示であるのに対し、死因贈与は相手との契約という点に違いがあります。
制度としてはもちろん存在しますし、ケースによっては使う余地もあります。
死因贈与は「遺言と似た機能を持つ遺言代用の仕組み」としては認識されているものの、
撤回をどう考えるか
受贈者の期待をどう保護するか
遺言とどこまで同じように扱うか
といった論点もあることから、積極的には利用されていないのが現状です。
今回のように、関係者の納得もあり、死亡後の承継をきちんと決めておきたいという場面であれば、
あえて死因贈与契約を検討するよりも、まずは遺言による遺贈を中心に考えた方が整理しやすいでしょう。
認知症対策まで考えるなら家族信託が候補になることも
もうひとつ、最近よく聞かれるのが家族信託です。
家族信託は、単に「死後に誰へ渡すか」を決めるだけでなく、
認知症などで本人が財産管理できなくなった場合に備えて、生前の管理も含めて設計できるのが特徴です。
そのため、
- 将来、本人の判断能力が低下したときに備えたい
- マンションの管理や売却も含めて家族が動きやすくしておきたい
- 死後の承継だけでなく、生前の財産管理まで見据えたい
という場合には、家族信託が候補になることがあります。
ただし、家族信託は万能ではありません。
受託者には、財産の分別管理や記録の保管、必要に応じた報告など、一定の管理負担がかかります。
そのため、今回のように「死後に孫へ引き継がせたい」という点が主な目的であれば、まずは遺言を本命として考え、必要に応じて家族信託を検討するという順番の方が自然だと思います。
注意したいポイント
孫は相続人ではない
子が存命である場合、その子どもである孫は通常、相続人ではありません。
そのため、法律上は「孫に相続させる」というより、遺贈するなどの整理になります。
税金は相続税だけではない
このようなケースでは、相続税だけでなく、贈与税、不動産取得税、登録免許税なども関わる可能性があります。
税金については一般的な考え方を踏まえつつ、具体的な税額や個別の判断は税理士に確認しながら進めることが大切です。
遺留分への配慮が必要な場合がある
孫にマンションを残したい場合でも、相続人の遺留分との関係に注意が必要なことがあります。
たとえ家族で話し合いができていても、その内容はできるだけ明確にし、法的な形にしておくことが大切です。
まとめ
孫に自宅マンションを残したいと考えたとき、方法はひとつではありません。
生前贈与、死因贈与、遺言による遺贈、家族信託など、いくつかの選択肢があります。
税金面や手続き面での負担などを考慮しつつ、自分にとって整理しやすい方法を選択することが大切です。
「誰に残したいか」だけでなく、
「どの方法なら無理なく実現しやすいか」
まで含めて考えることが、円滑な相続や終活につながります。

